「ベランダの侵入者はだれだ?」

作者ダイアリー

先日、ちょっとしたできごとがありました。

わたしの家は、
都心からちょっと離れた住宅地にあります。

家は多いですが、
緑や畑、細いながらも川があり、
とてもおだやかな街です。

その細い川は、
遊歩道よりも10mほど下にあるので人が立ち入れず、
水鳥やカモ、亀、ヘビまでもがゆうゆうと生活しています。

春になれば満開の桜とウグイスの鳴き声、
チョピチョピと泳ぎ回る小ガモも楽しめる、
都心周辺にしては
自然豊かなエリアだと思っています。

この地域に引っ越してきて、
私が一番驚いたのは、
川に野生のシラサギが数匹、生息していたことです。

シラサギというのは、
身体はまっ白、首や足がひょろっと長い、
あの優美なたたずまいの鳥のことです。

私の家はその川沿いの3階なので、
時には、川の上空を
首をすくめたシラサギが
ギュイーンと飛んでいくのが目に入り、
「豊かだなあ~。」と思うのです。

以前、川沿いを散歩しながらシラサギをながめていると、
知らないおじさんが話しかけてきて、

「あの鳥はね、コサギ、足が黄色くて
頭に2本羽が飛び出ているでしょう。」

と、教えてくれました。

おじさんの持っていたファイルには、
自分でパソコンから印刷した
川の鳥たちの写真がたくさん納められており、
それぞれにびっしりと書きこみがしてありました。
ちょっとした川博士です。

私とおじさんは、「かわいいですねえ。」などと言いながら、
ひょいひょいと魚をついばむコサギを
楽しんだのでした。

そんな自然豊かなこの街では、
小さな公園でキツツキを見つけたり、
古代種のような大きな蚊が網戸に張り付いていたりと、
驚くことがよくあるので、
ずいぶん楽しませてもらっているというわけです。

さて、そんなある日、
私は、ベランダで謎のものを発見しました。

生物の痕跡、いわゆる「動物のおとしもの」です。

鳩などのそれとはまったく印象が違う、
ちょっとした肉食の小動物のもののようでした。

「ハクビシンでもいるんだろうか?」

おとしものはなかなかのボリュームだったので、
おそうじも大変です。
ハクビシンであれば危険なので、
発見したら、申し訳ないけど追い払おうと決めました。

それからわたしは、
「侵入者探し」に躍起となりました。

ベランダの物音に集中し、
カツンと音がすれば駆けつけ、
…鳩がいただけ。
バサンと音がしても駆けつけ、
…風でカバーがめくれただけでした。

そんなことが1週間ほど続き、
「もう来ないのかもな。」と安心し、
同時に少しがっかりし始めたころのことでした。

パソコンに向かっていた私は、
コーヒーを取りにキッチンに入りました。
ふと窓の外を見ると、ベランダの手すりに、
ペリカンのような白くてドデカい鳥が、
羽を広げてとまっているではありませんか! 

「うおっ!」

思わず声を出し、
奴の目が、バッチリ私を見ました。

危険を察知した侵入者は、
ばっさばっさと、
そのドデカい羽を広げて飛び立ってしまったのでした。

私はすぐにベランダに飛び出して奴の姿を目で追いました。
それは、川に生息するあの「小さくてかわゆいコサギ」でした。

わたしはベランダの手すりを握りしめながら
「コサギ…、あんなにデカかったのか…。」
と思ったのでした。

その後、調べてみると、
「コサギ」はサギ科でありながら、
ペリカン目であることが判明。
体長もサギの中では小ぶりというだけで、
60センチもあるんです。
羽なんか広げると1メートルもあるんですよ?

川博士のおじさんが言っていた、
「コサギは肉食、魚を食べるの。」
と言っていた言葉がよみがえり、
「おとしもの」が立派であることも
じゅうぶんに納得できたというわけです。

今までは、遠くからしか見ていなかったので、
小さい鳥と思っていましたが、
実物はじつに巨大。
自然界の強さを感じたできごとでした。

それ以来、わが家のベランダには、
白い侵入者がやってくることはなくなりました。

落ち着いてみると、
「時々は顔を見せてほしいな、
そして、少しなついてくれないかな。」
なんて都合の良いことを思ってしまうのでした。

…おそうじがちょっと大変ですけどね。