創作童話7 「ありんこアリバート博士が 城をたてた話」  後編

童話

階段をのぼりきると、そこには小さな丸い部屋がありました。
部屋はアリバート博士専用なのか少し天井が低く、
大きな窓がひとつついていました。
そこから外を見ると、もうあたりは暗く、
星が見えはじめていました。
そして、すぐ前に、のぼるの団地が見えました。

「あれ?ここ、うら山のてっぺんじゃない?ぼくの部屋が見えるよ。」
「さようでございますよ。
あたくしも昨日、ここからぼっちゃんを見ていたんですから。
この城は、下から土をほって、
山のてっぺんまでつながっているのでございますよ。」

「すごいね!博士がひとりで作ったの?」

博士はにっこりして、やさしく話し始めました。

「ぼっちゃん。
あたくしは、夢のかなえ方を、長いこと研究してまいりました。
そうしてひとつの方法を見つけたんです。」

博士はそう言うと、黒板に白い石で、こう書きました。

1 ねがう。

2 はなす。

3 できるできる。

「ねがう、はなす、できるできる?」
「夢をかなえる方法です。
でもこの方法でかなえられる夢は、ほんとうのねがいごとだけです。」

「ほんとうのねがいごと?」
「ほんとうのねがいごとは、こころにまっすぐなねがいです。
おこづかいがほしいとか100点がとりたいとか、
そういったねがいとはぜんぜんせいしつがちがうものです。」
「見わけるのが、むずかしいんじゃない?」

のぼるが聞きました。

「そんなことありませんよ。
ほんとうのねがいはとってもワクワクして、
あきらめてもわすれられないのですぐにわかります。
ほんとうのねがいは、
まわりがなんて言おうと、ぜんぶ正解なんですよ?」

それを聞いて、のぼるはこころの奥がむずっとしました。

「あたくしは、せかい中の生きものが、みんなでなかよく暮らせる、
大きなお城があったらとってもしあわせだとねがったんです。
そうして、森のみんなに話しました。
もちろんそんな小さい体でとばかにされたり、
聞いたことがないから無理だとも言われました。
ですが、あたくしは、ほんとうに城を作りたかったので、
ひとりでどんどん巣をほりすすめたんです。

すると、それを見た友だちのありたちが、
手伝うと言ってくれたんでございます。
みんなでワイワイとほり進めていると、モグラにであいました。
そこで、モグラに事情を説明すると、
「そんならアタシが得意だから、まかせなさいよ。」と言って、
あの長い長い廊下と広間をあっという間にほってくれたのでございます。

階段を作って窓をひとつつくると、今度は小鳥たちがのぞきに来ました。
また、あたくしが説明をすると、
すぐに100羽のキツツキを集めて、
みんなでつついて階段を上にのばしてくれたのです。
それでも、小さなあたくしたちには、
大きいものたちの部屋が作れませんでした。
でも「できるできる。」と思っていると、
ぐうぜん大吉が冬ごもりのために作ったほら穴とぶつかり、
話を聞いた彼がひきうけて、
みんなの部屋をほり上げてくれたんでございますよ。
そうやってみんなのおかげで、あたくしは、
あたくしなりの城を作れたというわけなのでございます。」

そう言った博士は、とってもまんぞくそうに見えました。

「ほんとうのねがいごとは、
できるとしんじていると、かなってしまうのでございますよ。
ほんとうのねがい、ぼっちゃんにもおありでしょう?」

のぼるは博士を見ながら、ゆっくりとうなずきました。

「でしたら、すぐに大切な人に話してわかってもらって、
ずーっとできるできるとしんじつづけてごらんなさい。
きっと、するすると夢がかなってしまいますよ。」

「ねがう、はなす、できるできる。」

「さようでございます。どうぞ、忘れないでくださいね。」

「うん。わかったよ、博士。」

アリバート博士は、蝶ネクタイをついついとなでながら、
まんぞくそうに言いました。

「さ、もうだいじょうぶですね、ぼっちゃん。」

 

気がつくと、のぼるはじぶんの部屋のベッドの中にいました。

「博士?」

のぼるは、がばっと起き上がって、
窓からうら山のてっぺんを見ました。
ですがそこに研究室の窓はなく、
ただいつものように、木々がおいしげっているだけでした。
のぼるは夜のひんやりした空気を感じながら、
すこしの間、うら山を見ていましたが、
そのうちベッドにもどって眠ってしまいました。

次の朝、のぼるが朝ごはんをたべていると、またおかあさんが言いました。

「のぼる、アリの本ばっかり読んでないで、ちゃんと宿題やりなさいよ。」

のぼるは、またもごもごと「うん。」と言いそうになりましたが、
その言葉をぐいとのみこんで、思い切ってこう言いました。

「…あ、あ、あのね、おかあさん。…ぼく、ぼく、ありのことがもっともっとたくさん勉強したいんだよ。もっともっといろんなことが知りたいの。」

おかあさんはすこしの間、おどろいたような顔をしていました。
ですが、お皿とふきんを台所において、
のぼると向かいあって、まじめな顔をして座りました。

のぼるは止まらなくなって、しゃべり続けました。

「ありはね、とってもすごいんだよ。きれいで、頭が良くて、みんなで力をあわせて、すごく遠くまで歩いていくの。どこまでいっても、きちんとおうちにもどって来るよ。ぼくね、それを見ているのがすごくすごくうれしいの。どうしてそんなことができるのか、しりたいの。それからね、…えっと、えっとそれから…。」

一生けん命に話すのぼるの目には、
なぜかじんわりとなみだがうかんでいました。
それを、まじめに聞いていたおかあさんは、
にっこりとわらって言いました。

「そう。じゃあ、おかあさんも手伝うから、これからいっぱい勉強しなさい。
でもね、のぼる、ありのことをたくさん教えてもらえる学校に行くためには、
宿題もきちんとしないといけないわ。どう?できる?」 

「うん、わかった。きっとやるよ。」

 のぼるはなんだか急に、どんなことでもできるような気持ちになりました。

「できる。できる。」

のぼるはつぶやきました。


学校に行くと、またクラスのボスがやって来て、こわい声でこう言いました。

「よう、よわむし。きょうもアリばっかり見るんだろう。」

いつもののぼるならば下を向いてしまうところですが、
今日はボスの顔を、まっすぐに見て言いました。

「うん、そうだよ。
だってありはね、とってもかしこくて、とってもはたらきもので、
すごい力を持っていて、ぼくは大好きだから。
君にも教えてあげるよ、来て。」

そうハッキリ言われると、
意外にもボスは「いいよう。」と言って、すごすごとはなれてゆきました。 

その時、のぼるはうしろから声をかけられました。

「ねえ、のぼるくんだよね?」

ふりむくと、となりのクラスの男の子が立っていました。

「いつもここでありを見ているよね。
僕もありが好きなんだ。一緒に見ていてもいい?」

「もちろんだよ!
ぼく、おもしろい本をもっているよ、見せてあげる。」

とのぼるは答え、ふたりはそろって校庭のすみにかけてゆきました。


それから何年も何年もたって、
町なみのふんい気もずいぶんかわったころ。
アリバート博士が、例のてっぺんの窓から団地をのぞいてみると、
そこには、日本で初めての大きなありの研究所を作って、
とてもりっぱになったのぼるの姿が、見えたんだそうです。 

                       おしまい