創作童話3 「いちばん強い花」

童話

とある、日当たりの良い山のまん中あたりに、
100種類もの花の咲く、広い野原がありました。
春がやってくると、野原は赤やだいだい、青やむらさきと、
色とりどりの花でいっぱいになり、まったく美しい景色となりました。
ある時、一本の若い花が言いました。

「この中で、いちばん美しい花を決めようよ。」

花たちは大よろこびで、わいわいと相談をはじめました。

「わたしのあざやかな黄色が、いちばん美しいわ。」
と、菜の花が言いました。

「こんなにも美しい青色は、だれにも出せないでしょう。」
と、ネモフィラが言いました。

「優美で品のよいフリルをつけているのは、わたしだけよ。」
と、なでしこが言いました。

花たちが三日三晩、相談をした結果、
野原でいちばん美しい花は、バラに決まりました。
ごうかな赤い花びらを何枚もつけて、太い体でたたずむバラは、
まるで女王さまのように見えました。

バラのとなりにいた細くて白い花は、「すてきね。」とほほえんで言いました。

その白い花は、バラの半分ほどの背丈しかありませんでした。
くきも葉っぱも針金のように細く、今にも折れてしまいそうでした。
白い花は、りっぱなバラのかげになり、
太陽が十分に当たらなかったからです。
その白い花はバラを見て、「本当に美しいわ。」ともう一度言いました。

夏になると、今度はだれかが、

「いちばんりっぱな花をえらぼうよ。」

と言い出しました。

「わたしのからだの大きさを見てください。」
と、アジサイが言いました。

「こんなに高くのびる花が、ほかにありますか?」
と、タチアオイが言いました。

「わたしは、みなさんに時間を告げて、お役に立てます。」
と、トケイソウが言いました。

キキョウが白い花に、

「あなたは?」

と、聞きました。
すると白い花は、針金のような葉っぱを風になびかせながら、
「わたしはこんなに細いから。」とだけ、言いました。

また花たちが三日三晩、相談をした結果、
野原でいちばんりっぱな花は、ヒマワリに決まりました。
ヒマワリのからだは太くどっしりとしていて、だれもかないませんでした。

白い花はヒマワリに、「ほんとうにりっぱよ。」と、言いましたが、
その声は小さくかすれていました。
白い花の細い根っこは、ヒマワリの太い根っこにおしやられ、
十分に土から水が吸えなかったからです。

白い花は、あつい太陽を浴びながら、
「わたしの小さなからだに、十分なだけの水はあるからだいじょうぶよ。」と、
わらって言うのでした。

秋になると、山はあちこちで赤や黄に色づき始めました。
野原にもたくさんの実がなり、花たちはみな、とても幸せな気持ちでした。

そんなある時、野原はふいに大風と大雨におそわれました。
秋の大雨は長く、大風は花たちをぐいぐいとふりまわしました。
花たちはいく日もいく日も、歯を食いしばってこらえました。

やがて、あたたかい太陽が顔を出すと、
野原の上には、世界の果てまで続くような青空が広がりました。
花たちは口々に、

「ひどい雨だったねえ。」

「こわい風だった。」

と、話しあいました。

細くて白い花はというと、大風で枝が1本おれてしまい、
まん中からぷらんとたれさがっているのでした。
リンドウが心配そうに、

「だいじょうぶ?」

と聞くと、白い花は「まだ、くきがあるからだいじょうぶよ。」と、
ほほえんで言うのでした。

秋が終わるころ、花たちは、

「今度は、野原でいちばん強い花を決めようよ。」

と、言いはじめました。

「わたしの太いくきは、先の大風でもびくともしませんでした。」
と、キクが言いました。

「わたしには、どこででも咲けるたくましさがあります。」
と、マリーゴールドが言いました。

パンジーが白い花に、

「あなたは?」

と、聞きました。
すると白い花は少しつかれたように、
「わたしの葉は折れて、根っこも水を吸い上げられないの。
だからわたしにはむりよ。」と、言いました。

そんな話し合いをしている内に、寒い季節がやってきました。
いつしか、冷たい風が吹きはじめ、
花たちは少しずつ弱々しくなってゆきました。

1本、また1本と、花たちは枯れはじめました。
そして、まっ白で静かな雪が野原をおおうと、
もう誰の声も聞こえなくなりました。

やがて、長い長い冬が終わり、雪は少しずつとけてゆきました。
花たちは枯れはて、美しかったバラも、りっぱだったヒマワリも、
寒さにまけて、黒く茶色くたたずんでいました。

その時、食べ物をさがして飛んできた鳥たちが、野原を見ておどろきました。

「おや、ごらん。こんなに荒れた野原に、1本だけ花が咲いているよ。」

枯れはてた野原の中に、たった1本だけ咲いていたのは、
あの細くて白い花でした。
枝はいく本も折れ、しおれていましたが、
花はしっかりと空を向き、太陽の光を細いからだいっぱいに受けて、
立っていました。

白い花は、太陽がわずかでも栄養に変えるすべを知っていました。
水が吸えなくても、少しの水で持ちこたえるすべを知っていました。
だから、生き残ることができたのです。

あたたかい春がやってくると、
白い花のまわりには、小さな白い花の芽がいくつも顔を出しました。
細くて白い花は、細くて白い家族を作り、野原で幸せにくらしました。

                           おしまい