創作童話8「むっつりばあさんと にこまるまんじゅう」 前編

童話

とある村のはずれに、
小さなまんじゅう屋がありました。
店のまん中には、
ふるぼけたガラスケースがあって、
茶色いまんじゅうがきれいにならべられています。

そして、そのケースの後ろには、
むっつりとした顔のばあさんが、
いつもだまってすわっています。

お客さんが来ても、
ばあさんはにこりともせず、
口をへの字につぐんで岩のようにすわっています。

まんじゅうをわたす時に、
「ふん」とだけいうのですが、
口がピクリともうごかないので、
村の人たちは「いったいどこから、声が出ているのやら」と、
うわさをしているのでした。

むかしなじみのひでじいが来る時は、
ばあさんも少しだけ話をします。
「やあ、ばあさん。いい天気だな。
今日もまんじゅう、3つばかりおくれよ。」
すると、ばあさんは、
「ふん、今日も来たのかい。よっぽどヒマなんだね。」
と、いいかえすのです。

もちろん、お客さんはさっぱりふえません。
ばあさんがあまりにむっつりしているので、
みんな、なんだかもうしわけなくなって、
来られなくなってしまうのです。

お客らしいお客といえば、
むかしなじみのひでじいと、
ももばあと、うめばあぐらいです。

それでもこの3人が、
ばあさんの店にかわるがわるやって来るのは、
まんじゅうがどこよりも
きっちり作られていることを知っているから、
そして、
ばあさんがむっつりする前からの知りあいだったからです。

ばあさんのまんじゅうは、
皮はふっくら、あんこはこっくり、
すこし香ばしくて、どこを食べてもしっとりしています。

ひでじいいわく、
「この世で一番、うまいまんじゅう」なのですが、
ばあさんはむっつりしているので、
それを聞いたことはありません。

そんなふうなので、
まんじゅうはいつも売れのこってしまいます。
ほとんどは、ばあさんの夜ごはんになるのですが、
さすがに毎日続くと、
ばあさんもちょっとあきてしまいます。

そこでばあさんは、のこったまんじゅうを、
家の裏庭にある
切り株の上においておくことにしました。
「ふん、すてちまうよりは、
けものにでも食われた方が、なんぼかましってもんさね。」
と、ばあさんはひとりごとをいいました。

次の朝、
切り株のまんじゅうは、きれいになくなっていました。
「ネズミかタヌキかね、どっちにしろ、ぜいたくなこった。」
そう、ぶつぶついいましたが、
ばあさんはその晩も、
のこったまんじゅうを、切り株にのせておきました。

その次の朝も、
やっぱりまんじゅうはなくなっています。
「ふん、いっぱしに、気に入ったみたいじゃないか。」
それから、夜になると、
売れのこったまんじゅうを切り株にのせておくのが、
ばあさんの日課になりました。

そんなある朝、
ばあさんがいつものように裏庭に行くと、
茶色いまんじゅうをおいたはずの切り株の上に、
見たことのない黄色いまんじゅうがひとつ、
おいてあるのに気づきました。

まんじゅうからは、
ほこほことあたたかい湯気が立ちのぼり、
なんともおいしそうです。
「へえ、なんだいこりゃ、
いったい、だれがおいていったんだろうね。」

ばあさんは、
まわりをきょろきょろと見まわしましたが、
だれもいません。

黄色いまんじゅうには、
焼き印なのか、にっこりわらった顔がうかんでいて、
まるでまるいにこにこ顔みたいです。

湯気にのったあまやかな香りが鼻をくすぐり、
ばあさんはくらくらして、
ついそのまんじゅうを食べてしまいました。

ほふん!

口の中は、はじめて味わう、
やさしいあまみでいっぱいです。
「へえええ、おどろいた!こりゃあ、うまいね!」
ばあさんは思わず、
大きな声でうなってしまいました。

ばあさんもまんじゅう作りには自信がありましたが、
このまんじゅうのあまさは、
いったいなんの味なのか、見当もつかないのです。
その時でした。

おなかの底からむずむずとなにかがこみ上げ、
ばあさんのほそい目がパチンと開きました。

「あれま、
今日はなんて空が青く見えるんだろう。
このまんじゅうのせいだろか。」
ばあさんはたまらず、のこったもう半分を、
一口でパクリっとかぶりつきました。

すると、
ばあさんのかたまったほっぺたが、
ぴくん、ぴくんとふるえ出し、
きつくむすんでいたへの字の口が、
ぱかーんと開いてしまいました。

「なんだいこりゃ、ははは。どうしたことだろう、ほほほ。」
大きな口が開いているので、
ばあさんがなにかしゃべるたびに、
まるでわらっているみたいです。

ちょうどその時、
いつものひでじいがお店にやって来ました。
「ばあさん!ばあさんや!おらんのかね?」
ばあさんはしかたなく、
そのままお店に出てゆきました。

「やあ、ばあさん。今日もまんじゅうを3つおくれや。」
ばあさんはいつものように、
「ふん、今日も来たのかい。」
と、いったつもりでしたが、
今日はまんじゅうのせいで口がわらっていたので、
「今日も来てくれたのかい、ははは」
と、いってしまいました。

ばあさんは「しまった!」と思いましたが、
それを聞いたひでじいの方は大よろこびです。
「なんだい、ばあさん。
今日はずいぶん機嫌がいいじゃないか。
よし、じゃあ今日は、
まんじゅうを5つにしようかな。」
そういって、ひでじいは、
いつもよりたくさんまんじゅうを買って、
かえってゆきました。

「どうやら、あのまんじゅうを食べると、
おなかから力がわいて、わらってしまうらしいね。」
ばあさんは、ふしぎでたまりません。

夕方になると、まんじゅうの力はきえ、
ばあさんの顔は、
いつものむっつりにもどってしまいました。

ばあさんは、
ひでじいのうれしそうな顔がわすれられず、
今日ものこったまんじゅうを、
切り株にのせておくことにしました。

次の朝、切り株には、
またにこにこ顔のまんじゅうがおいてありました。
ばあさんはかけよると、
まよわずパクリっとかぶりつき、
ひといきに食べてしまいました。

黄色いまんじゅうは、
今日もうっとりするほどあまやかです。
少しすると、やっぱりおなかの底がむずむずして、
ほほがゆるみ、口がぱかーんと開きました。

「おばあさん、
みんなでおまんじゅういただきにきたわ。」
お店の方から、ももばあとうめばあの、
にぎやかな声が聞こえてきました。
ひでじいにうわさを聞いて、
お友だちをさそってかけつけてくれたのです。

店に出てきたばあさんは、
「ふん、なんだい、こんなに大勢で。」
といったつもりでしたが、
やっぱり口がかってに動いて、
「こんなにたくさん、よく来てくれたね、ほはは。」
と、いってしまいました。

ももばあとうめばあも、大よろこびです。
ふたりはずっと、
むかしのようにばあさんと話がしたいと思っていたので、
たくさんまんじゅうを買い、
お店のいすにわって、おしゃべりをはじめました。

「今日も、おいしいわよ。」
「ねえ、ほんとよ、ほっぺがおちちゃうわ。」
いつもなら「ふん」というだけなのですが、
今日はなにせ、ぽかんと口が開いています。

「そうかい、そりゃ、よかったよ、ほほ。
うちのまんじゅうはね、
親がのこしてくれたひみつの作り方なんだから。
ふたりがなくなった時に、
ぜったいにわたしが作ろうときめたのだから。」
おなかにあった話が、
ぜんぶとび出してしまいました。

するとももばあたちは、
「あの時は、大へんだったわよね。
わたしたち、なにもできなくて、わるかったわね。
おまんじゅう、とってもおいしくできているわよ。
ねえ、うめばあ。」
「そうよ。わたしたち、これから毎日食べに来るわ。」
そして、ふたりは口ぐちに、
「おいしいおいしい」といいました。

ばあさんはそれを聞きながら、
むねのかたいものが、
すこしだけとれたような気がしました。

ももばあたちがかえると、
きゅうに店はしずかになった気がしました。
ふと目をやると、
店の入り口に小さな男の子が立っています。
男の子は口をへの字にむすび、
むっつりした顔で、
ガラスケースのおまんじゅうを見ているのです。

     「むっつりばあさんと にこまるまんじゅう 後編」につづく