ひろい森のまん中に、こだかい丘があります。
そして、その丘のてっぺんには、
1本の大きな さくらの木がたっています。
まい年、春になると、
さくらの木は 枝いっぱいに まっ白な花をつけるので、
森のみんなは
まるで 森からわたぼうしが、
にょっこりつきだしているみたいだね といっています。
あたたかく ぬけるような青空の中、
たくさんの花びらは風にふかれて、
四方の森へとふりそそぎます。
今年も もう春、
まんまるのわたぼうしになるまで、あとすこしです。
そのりっぱなさくらの木をよくみると、
みきに なにやら小さな窓がついています。
カタンと音がして窓があくと、
さくらの木から、ひとりの女の子が顔をだしました。
その女の子は、
おちんばかりに体をのりだして
花のようすをたしかめると、
「うん、そろそろだわ。」
と、きこえるようなひとりごとをいって ひっこみました。
この女の子の名前は、コトハ。
このりっぱなさくらの木にすんでいます。
コトハは さくらの木のふといみきの中に、
こじんまりした部屋を ふたつもっています。
ひとつめの部屋には、
お茶と読書をするための テーブルといすが、
はしごをのぼった2階には、
ぐっすりねむるための ベッドがあります。
コトハは お茶のカップを手ぎわよくかたづけ、
たんすからおきにいりの
さくら色のワンピースをとりだして きがえました。
それから鏡にむかって、
じまんの くり色のくせっ毛が、
かたのあたりで くるんとカールしているか
かくにんします。
そして、じゅんびがととのうと、
「さあ、やるわよ。」
といって、バタバタとおそうじをはじめました。
コトハは春になると、とてもいそがしくなります。
なぜって、年に一度、
さくらの花が満開になる1週間だけ、
「さくらゆうびんきょく」を開くからです。
まずは お茶のテーブルを窓の下にいどうします。
かべには 4段のたながあって、
コトハが1年かけてためこんだ空きビンが、
ぎっしりつまっています。
空きビンを ぜんぶおろして、
たなにつもったほこりを 布ですっかりふきとると、
それぞれの段にかけられた
「北・南・東・西」という札が みえるようになりました。
その時、
窓辺に子リスがやってきました。
「コトハちゃん、おはよう。そろそろだね!」
「そうなの、もう、今日にもはじまるとおもうわ。
いそがなくっちゃあ。リスさん、手つだってくれる?」
コトハは、
たなの横に 天井まで高くつみあげられた本の中から、
一番下にある ぶあつい辞典をひきだそうとしていました。
「あぶないよ、コトハちゃん。
ぼくが、上の方をおさえているよ。」
「ありがとう、おねがいするわ。」
バランスをくずしたら、たいへんです。
ふたりがかりで そーっと そーっと、
本をたおさないようにひきぬきます。
ぶあつい辞典には、
昨年の夏、コトハがはさんださくらの葉っぱが
たくさんはいっているはずです。
ぱりぱりと音をたててページをめくると、
ありました、ありました、
紙のように ぴんと たいらになった、
きれいなさくらのおし葉です。
コトハは、テーブルの上の
「でんぴょう」とかかれた箱の中に、
おし葉を たいせつにかさねて いれておきます。
さいごに、
冬にはがれおちた 古いさくらの皮を、
ほそーくきざんで、
いく本もの ひもをつくりました。
その時、
子リスが外からコトハをよびました。
「コトハちゃん、さくらが満開になったよ!」
外にでてみると、
今年も、さくらは はじまでみえないほどの、
大きな 大きな わたぼうしになっていました。
花びらが風にふかれて、
ひらひらと顔のそばをとおると、
まるで、うっすらあまいかおりの 雪がふっているようです。
ふたりは、
まいちるさくらを かたっぱしから集めて、
さきほど たなからだした 空きビンにつめてゆきます。
さくらの花びらは つぎからつぎへとふってくるので、
ぜんぶのビンが すぐにいっぱいになりました。
さあ、じゅんびばんたんです!
コトハは 窓を大きく開けると、
森中にきこえるようにいいました。
「みなさん、おまたせしました!
今年も、さくらゆうびんきょくが開きます!
たいせつな方に とどけたい言葉は ありませんか?」
さいしょのおきゃくさんは、
もちろん さきほどからお手つだいをしている子リスです。
「今年も、ぼくのお手紙をおねがいします。」
「リスさん、いつもありがとうございます。
さて、今年はなん枚でしょう?」
「17枚、おねがいします。」
「かしこまりました。」
コトハは キュキュッと音をたててビンを開けると、
中から花びらを きっかり17枚とりだして
子リスにわたします。
子リスはちいさな手で
たいせつに花びらをうけとると、
きずつけないように注意しながら、
1枚に1文字ずつ 文字をかきはじめました。
ゲ・ン・キ・デ・ス・カ・ナ・ツ・ニ・ア・ソ・ビ・ニ・イ・キ・マ・ス
「西の森のかしの木にすむ、友だちへおねがいします。」
「かしこまりました。
では、東の風がふく日に おとどけしますね。」
コトハは 花びらのじゅんばんをかえないよう、
注意しながらうけとると、
おし葉のでんぴょうをつけ、皮のひもでしばって、
「西」とかかれた たなにおきます。
さくらゆうびんきょくのまえには、
手紙をおくりたい動物たちで、
丘のふもとまで ながい列ができています。
ウサギも ヤギも シカも カッコウも トンボも カエルも、
この季節をまっていたのです。
「ふう、たいへん たいへん。
行き先をまちがえないようにしなくっちゃあ。」
4つのたなは、
みんなが たいせつな人にとどけたい言葉で、
あっというまにいっぱいになりました。
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次の日、
コトハは朝一番におきだして、
おきにいりの枝にこしかけ、
風がふくのをしずかにまっています。
やがて、そよりと空がゆれたかとおもうと、
東のさわやかな風がふきはじめました。
「きたわ。」
コトハは いそいで部屋にかけおり、
「西」のたなの手紙のたばをかかえると、
さくらの一番高い枝へのぼりました。
まずとりだしたのは、子リスのお手紙です。
「さあ、西の森のお友だちまで、
たしかにとどけてちょうだい。」
コトハはそういうと、
花びらのじゅんばんをかえないよう、
1枚ずつしんちょうに、東の風にのせていきます。
すみやかな東の風にのった花びらは、
一列になって 西へ西へとながれてゆきました。
そのころ、西の森のかしの木の枝では、
友だちの子リスがどんぐりをたべていました。
東の風は子リスを見つけると、
ふっとさくらの手紙を手ばなします。
花びらは一列のままひらひらと、
子リスのいる枝にまいおちます。
そして、友だちの子リスは
ならんだ花びらを1枚ずつ読み、
「はやく、夏にならないかなあ!」
と ワクワク思うというわけです。
これが、
コトハの さくらゆうびんきょくのおしごとです。
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コトハが 西行きの手紙をぜんぶ風にのせ、
下におりようとした時、
丘のふもとから、アライグマのおかあさんが、
あわててはしってくるのがみえました。
「コトハちゃん、たいへんなの。
わたしったら、北の森におよめにいったむすめに、
スモモのケーキのレシピを おしえわすれてしまって。
はやくしないと、スモモの季節にまにあわないわ。」
「それはたいへん、そくたつでおくりましょう。」
コトハとアライグマのおかあさんは、
手わけして花びらにレシピをかきました。
トリタテノスモモ カゴイッパイ
フンワリコムギコ 100グラム
アマーイオサトウ 60グラム
コックリバター 80グラム ……
アライグマのおかあさんは、
森一番の料理上手なのですが、
そのぶん材料もつくり方もたくさんです。
なんと 328枚もの花びらをつかって、
レシピのお手紙をかきあげ、
ホッとしたようにかえってゆきました。
コトハは 5つの山になった花びらのお手紙を
北のたなにおきながら、
「これはしんちょうに おくらなくっちゃあ。
だって、じゅんばんをまちがえてしまったら、
材料をまぜあわせるまえに オーブンでやいてしまうわ。」
と、おもいました。
アライグマのおかあさんのレシピは、
その日のうちに 力づよい南風にのり、
ながい ながい ながい ながい列になって、
北の森へとながれてゆきました。
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その次の日、
コトハが さくらのお茶をのんでいると、
とおくから ハリネズミが、
こちらをみているのにきづきました。
「こんにちは、お手紙ですか。」
コトハがこえをかけても、
ハリネズミは ふるふると首をふっているだけです。
「ちょうど お茶をしているところなの、
ハリネズミさんも いっしょにいかが?」
あたたかいさくらのお茶をいれると、
ハリネズミは ぽつりぽつりと はなしはじめました。
「東の森にいるたいせつな友だちを、
うっかりきずつけてしまって。
それいらい はなしていなくて。
なんてつたえたらいいのか わからなくて、
お手紙なんか かけないんです。」
コトハは はなしをきくと、
「…なかなおりしたいのよね。」
と、しずかにいいました。
「ぼく、きずつけるつもりは なかったんだ。」
そういうと、ハリネズミは
ぽろぽろと なみだをこぼしはじめました。
コトハは ちょっとのあいだ、
よい言葉を かんがえていましたが、
なにかをおもいついていいました。
「わかりました。ねえ、ハリネズミさん。
この中から すきな花びらを4枚、
えらんでくださらない?」
といって、花びらのビンをわたしました。
ハリネズミは、中から一番きれいな
うすもも色の花びらを4枚えらびました。
「今ちょうど、西の風がふきはじめたわ。」
そういうと、コトハはハリネズミといっしょに
一番高い枝へのぼりました。
「では、お友だちをおもいながら、
その花びらを 1枚ずつ風にのせてください。」
「このまま?」
「そう、このまま。」
ハリネズミは なにもかいていない4枚の花びらを、
1枚1枚、たいせつに、たいせつに、西の風にのせました。
やさしい西の風は、音もなくしずかに、
言葉のない手紙をのせて ながれてゆきました。
「なにも かいていなくても、
たいせつなお友だちには、きっとおもいがとどきますよ。」
ハリネズミは、4枚の花びらがながれていった先を、
ずっとずっと見つめていました。
「コトハちゃん、ゆうびんおねがいします。」
ふたりが下をみると、こんどは子グマがたっていました。
創作童話12 「さくらゆうびんきょく」 後編につづく。

