「コトハちゃん、ゆうびんおねがいします。」
ふたりが下をみると、こんどは子グマがたっていました。
「あ、クマくん。今年も おばあちゃまにお手紙ですか?」
「うん。」
子グマは、さくらゆうびんきょくの じょうれんさんです。
子グマのおばあちゃんは 体がわるく、
もうなん年も 南の森の病院に入院しているのです。
おうちへもどってこられないおばあちゃんに、
子グマはまい年、さくらのお手紙をおくっています。
今年も子グマは、50枚もの花びらをつかって、
おばあちゃんを とてもしんぱいしていること、
それから、
森でおきた おもしろおかしいできごとをつづりました。
そしてみんなで 手わけして1枚ずつ、
すばやい北の風にのせて お手紙をながしました。
「クマくんのお手紙がとどけば、
きっとおばあちゃま、おげんきになられるわ。」
すると、子グマがいいました。
「うん。ぼくの手紙がとどくとね、
おばあちゃん、すごくげんきになるんだって。
でもね、春がおわって 手紙がとどかなくなると、
また ぐあいがわるくなって、
もとにもどっちゃうんだって。
さくらが 1年中さいていればいいのにね。
今年もありがとうね、コトハちゃん。」
それをきいてコトハは、
なんだか、すぐに返事ができませんでした。
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その夜、コトハはベッドの中で、
ながいこと ねむれませんでした。
さくらの花がさくのは ほんの1週間だけ、
コトハには、そのほかの季節に
手紙をとどけてあげることはできないのです。
そしたら、おばあちゃまは、
また ぐあいがわるくなってしまうかもしれない。
だいすきな さくらゆうびんきょくのおしごとが、
なんだかすこしだけ、
ちっぽけにみえてしまったのです。
コトハは ベッドからぬけだすと、
さくらの枝にすわり、
夜のひんやりした風にふかれながら、
いつまでも みきとはなしをしていました。
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次の朝、
コトハは すぐにおきて 顔をあらい、
朝ごはんをしっかりたべて 枝にのぼりました。
そして のこっている花びらぜんぶに、
1枚1枚 文字をかきはじめました。
タ・ス・ケ・テ・ダ・レ・カ・オ・テ・ガ・ミ・ト・ド・ケ・テ・ク・ダ・サ・イ
すべての花びらに 文字をかきおえると、
コトハは さくらのてっぺんにあがり、
風たちによびかけました。
「おねがい、風さん!この言葉を森中にとどけて!」
すると、青い空がびゅうっとゆれて、
つよい風、さわやかな風、あたたかい風、やさしい風が、
いっせいに さくらゆうびんきょくにふきこみました。
枝にさいていた すべての花びらは
1枚のこらず 大きくまいあがり、
たくさんの列になって 四方の森へひろがってゆきました。
コトハは 最後の花びらをみおくると、
「さ、やることはやったわ。あとはまつだけね。」
と、いいました。
花びらが なくなってしまったので、
今年のさくらゆうびんきょくは、
はやめに店じまいです。
コトハは 子グマやハリネズミをよんで、
さくらのお茶をふるまって たのしくすごしていました。
と、1週間もしたころ、子リスがやってきていいました。
「コトハちゃん!
タンポポ畑が コトハちゃんのことを よんでいるよ!」
「なにかしら…、もしかして?」
タンポポ畑では、かわいらしい黄色い花の季節が、
おわろうとしていました。
タンポポたちは いいました。
「コトハちゃん、さくらのお手紙を読みました。
わたしたちは、もうすぐ ふわふわのわた毛をとばします。
あんまり はやくとべないけれど、
さくらゆうびんきょくの かわりにならないかしら?」
「まあ、すてき!ありがとう、タンポポさん!」
コトハたちは 手わけして、
子グマのかいた文字を わた毛にくくりつけました。
やさしいわた毛は ゆっくり ゆっくり、
南にあるおばあちゃんの病院へむけて とんでゆきました。
タンポポたちのおかげで、春がおわるまで、
ずーっと手紙をおくりつづけることができます。
タンポポのわた毛がなくなり、あつくなりはじめたころ、
コトハは ヒマワリ畑によばれました。
ヒマワリ畑では、どうどうとしたヒマワリの花が、
一面にさきほこっていました。
「コトハさん、さくらのお手紙を読みました。
わたしたちは、花びらが こんなにたくさんあります。
1枚はちいさいけれど、とにかく たくさんありますので、
さくらゆうびんきょくの かわりになりませんか?」
「もちろんだわ!ありがとう、ヒマワリさん!」
コトハと子グマたちは、
ヒマワリに かききれないほどの花びらをもらい、
北の風にのせてとばしました。
ヒマワリのおかげで、夏がおわるまで、
ずーっと手紙をおくりつづけることができます。
ヒマワリの季節がおわり、風がひんやりしたころ、
今度は 森一番の大イチョウがコトハをよびました。
大イチョウのじいさんは、
緑の葉が すこし黄色くなりはじめていました。
「コトハよ、さくらの手紙を読んだぞ。
もうすぐ わしの葉が黄色くなっておちるじゃろう。
ぜんぶ ゆうびんにつかってかまわんぞ。
ただし、いっせいにおちるからな、
おくれないよう きをつけるんじゃぞ。」
「わかったわ、ありがとう、おじいちゃん!」
コトハと子グマたちは、
大いそぎでイチョウにのぼり、
すべての葉っぱに、おばあちゃんへのお手紙をかきました。
秋がふかまったある日、イチョウの葉は
おじいちゃんがいったとおり いっせいにおち、
つよい北風にのって、大行列になって南へながれてゆきました。
「おばあちゃま、
こんなにたくさんのお手紙、読みきれるかしら。」
「でも、冬のあいだはおくれないから、おおい方がいいよね。」
と子グマがいいました。
そうです。
みんなのおかげで、秋のおわりまでは、
ずーっと手紙を おくりつづけることができました。
でも冬になれば、森の植物はかれ、
もうお手紙を とどけられなくなってしまいます。
「そうね。」
と、コトハはいいました。
本当は、春までずっと、
お手紙をおくりつづけてあげたかったのです。
コトハと子グマたちは、さくらの木へむかいました。
すると、先頭をはしっていた子リスがいいました。
「あれ?コトハちゃん、さくらの花がさいているよ?」
とおくから 丘の上のさくらをみると、
たしかに枝には、まっ白なわたぼうしが、
たくさんついているようにみえます。
「まさか、そんなはずはないわ。
さくらは 春にしかさかないもの。」
コトハたちがかけよると、
なんと わたぼうしにみえていたのは、
たくさんのハクチョウたちでした。
「コトハさん、さくらのお手紙を読みました。
わたしたちは冬のあいだ、南へむかって旅だちます。
さくらゆうびんきょくの かわりになりませんか?」
「なんてすてきなの!ハクチョウさん、ありがとう!」
コトハが ハクチョウたちに
さくらのお茶をふるまっているあいだに、
子グマは 春まで読みつづけられるほどの、
ながいお手紙を 何枚も何枚もかきました。
子リスは 森の植物や動物たちの絵をかき、
ハリネズミは 木の実でかざりをつくりました。
コトハは あたたかくのんでいただける、
さくらのお茶をつつみました。
ハクチョウたちは、
手紙と おくりものを くちばしいっぱいにくわえ、
南にむけて旅だちました。
「いってらっしゃーい!」
みんなのおかげで、さむいさむい冬のあいだも、
おばあちゃんに お手紙を読んでいただけます。
そして、
また 次の春がやってきました。
コトハのさくらも あとすこしで
まんまるのわたぼうしになりそうです。
今年は 子リスと子グマとハリネズミも、
さくらゆうびんきょくの仲間です。
みんなで枝にのぼり、
ビンに花びらをあつめていると、子リスがいいました。
「ねえ、だれか、こっちにあるいてくるよ。」
丘のふもとには、
ゆっくり ゆっくり、こちらへむかってあるく かげが見えます。
あれは…、
「おばあちゃんだ!」
子グマは 声をあげるなり 枝からとびおりると、
ころがるように丘をかけおりました。
そして、だいすきな だいすきな おばあちゃんのむねに、
ぽふんと とびこみました。
おばあちゃんは、
まい日のようにとどく 子グマのお手紙をよんで、
みるみるげんきになり 退院できたのでした。
おばあちゃんは、やさしく子グマをだきしめ、
「ありがとうね、ありがとうね。」
といいました。
そして、
さくらゆうびんきょくの仲間をみていいました。
「あなたがコトハちゃんね。
それから、リスくんと ハリネズミくん。
ふしぎね、みんなのお手紙を読んでいたら、
どんどんげんきがわいちゃって、
病気なんか ふっとんじゃったのよ。
今、病院のまわりはね、
黄色いタンポポでいっぱいなのよ!」
「おばあちゃま、
おげんきになられてうれしいわ。
よかったわね、クマくん。」
子グマはしっかりとおばあちゃんにだきついたまま、
はなれませんでした。
それからみんなは、
手わけして たなのそうじをして、
さくらの花びらを たっぷりあつめました。
さあ、今年もじゅんびばんたんです!
「みなさん、おまたせしました!
今年も、さくらゆうびんきょくが開きます!
たいせつな方に とどけたい言葉は ありませんか?」
おしまい
