創作童話13 「夢林檎の木」 前編

童話


とある森に、
ちいさなウサギの子が すんでおりました。

ウサギは
だれよりもやさしい子でしたが、
そのぶん ひどくおくびょうでした。

ライオンくんが
とおくでちいさく「がおう」といっただけで、
いつも ぶるるっとふるえあがって、
森ににげこんでしまいます。

そんなウサギの ひみつのかくれ家は、 
森の一番おくにある しずかな泉です。

きょうも ウサギはひとりぼっちで、
泉のほとりにころがった丸太にすわり、
水面にうつる じぶんのかおをみていました。

「ああ、ぼくは ほんとうによわい。
ライオンくんみたいに、おおきくつよくなれたら。」

ウサギは思わず、
ぽとりと なみだをこぼしました。


その時でした。

泉のおくふかくが ぼうっと金色に光ったかと思うと、
みるみるうちにおおきくふくらみ、
まばゆい光の玉となって 泉の上にあふれだしました。

そして、その光の中から、
すきとおるようにうつくしい
森の女神があらわれました。


女神は ウサギの子にちかづくと、
しなやかなゆびをのばして やわらかいほほにふれ、
うたうようにいいました。

  ちいさな子 ちいさな子

  どうか なかないで

  なにが そんなに かなしいか

  わたしに はなしてごらんなさい


ウサギは いいました。
「女神さま、
ぼくは ほんとうにちいさくてよわいです。
ライオンくんみたいに、
おおきくつよく なりたいのです。」

女神は やさしくほほえみました。
そして、ほほにふれていた手を
ウサギの目のまえで やさしくにぎり、
もう一度 ひらいてみせました。

女神の手のひらには いつのまにか、
黒いつやつやしたタネが一つぶ、のっていました。

  ああ いとしい子 いとしい子

  これは あなたの 夢林檎のタネ

  その枝に 金色の実がなるころ

  あなたのねがいは かなうでしょう

  この実が そだつとしんじると

  わたしに やくそくできますか?


ウサギはいそいで、
「ぼく、しんじます」
といいました。

それをきくと、
女神はうれしそうにほほえんで、
しずかに光の中へきえてゆきました。


ウサギは家にかえると、
さっそく夢林檎のタネを 
ちいさな鉢へうえつけました。

そして、だれにもみつからないよう、
じぶんのへやに かくしておきました。


よく朝、鉢には、
もう ちいさな芽が かおをだしていました。
うさぎはうれしくて、
毎日、たいせつに おせわをしました。

芽は 水をあげれば 葉をふやし、
お日さまにあてれば 背をのばしました。

ウサギが 「おはよう」とこえをかければ、
まるで返事をするように
ひらひらと 緑色の葉をゆらしました。

夢林檎の木は、
せわをすれば するだけ、
みつめれば みつめるだけ、
おおきくなっていくようでした。


葉が10枚ほどになった、ある朝のこと。

ウサギがいつものように 水をあげようとすると、
茎に びっしりと
くいあらし虫が ついていることにきづきました。

くいあらし虫は あまい汁がだいすきで、
夢林檎のあまいかおりに ひきよせられて
すみついてしまったのでした。

くいあらし虫たちのかおは とてもおそろしく、
ちいさなウサギなど みむきもせずに、
枝のあちこちから 汁をすいつづけています。

ウサギは、
きりふきの水をかけたり、
息でふいたりしましたが、
虫たちはびくともしません。

ウサギはもう こわくてこわくて、
そのまま 鉢をうら庭にもちだし、
ほうってしまいました。

そして、
「林檎の木だけで つよくなれるなんて、
そんなこと あるわけないんだもの。」
と、じぶんにいいきかせました。


その夜、
ウサギは ねむれませんでした。

夢林檎の木は 虫たちに汁をすわれて、
きっとすぐに かれてしまいます。
ウサギのねがいも かなうことはないでしょう。

なによりも、
よわってゆく 木のすがたを思うと、
ウサギのこころは きゅっとしめつけられるのでした。

「やっぱり、ぼくが よわいからだ。」
ウサギのなみだが、
まくらに すいと しみこみました。


その時です。

窓がかってに ばたんとひらき、
すきとおるように うつくしい
一わの鳥がとびこんできました。

鳥の尾は シルクのように うつくしくながく、
まるで へや中に 白い光がふりそそぐようでした。 

その鳥は、
女神の ふたつ目のすがたでした。

女神の鳥は 本だなの上にとまり、
ウサギにいいました。

  ちいさな子 ちいさな子

  わたしとの やくそくを 

  わすれてしまったのですか

ウサギは、
金色の実がそだつとしんじると、
やくそくしたのでした。

「でも、女神さま。ぼくはよわいから、 
あんなにつよい虫たちを どうもできないです。」

すると、
鳥はウサギの上を、
やさしく するするとまわりながらいいました。

  ああ いとしい子 いとしい子

  あなたが するべきことは 

  いまの あなたに できること

  ちいさな あなたに できること


そういうと 女神の鳥は、
窓からすいと でてゆきました。

ウサギはベッドの中で、
じぶんにできることを
いっしょうけんめいかんがえました。


朝になると、
ウサギはすぐに うら庭へいきました。
茎には やはりまだ、虫がびっしりとついており、
今にも ぽきっとおれてしまいそうです。

ウサギは ゆうきをふりしぼって、
虫たちに はなしかけました。

「あの、こんにちは、虫さん。
これは…、これは…、
ぼくが とてもたいせつにしている 夢林檎の木です。
どうか、よそへいってもらえませんか?」

くいあらし虫たちは、
いっせいに ウサギのほうへ 
ぐりんと かおをむけると、
くちぐちにいいました。 

「いやだ」
「いやだね」
「いやだ」
「いやだ、いやだ」

ウサギは ききました。
「どうしてそんなに この木がいいのですか?」

「われわれは おなかがすいている。
わたしたちも かぞくに あまいごはんを
たべさせてやらなければならないのだ。」

虫たちは おこって、
そうだそうだと いいました。

それをきいたウサギは、なんだかすこし
「なんとかしてあげたい」
というきもちに なっていました。

そこでウサギは、 
よいことを思いつきました。

                  →「創作童話13 夢林檎の木」後編へつづく。